
燃え屑の彗星を拾った
燃え屑の彗星を拾った。
「死んだのか」
彗星に語り掛けた
声は乾ききった空気の隙間を、何とか潜って届いた
燃え尽きたはずの彗星は、真っ黒に焼けた身体を微かに震わせる
「死ぬはずだよ。燃え尽きてしまった後には、僕らはもう輝けないから。」
彗星の声もそれはそれはか細いものだった。いつ途切れるやもしれぬ一本の糸のようで、それだけで彼がもうすぐ死んでしまうものだと分かった。
「君たちの死は、輝けなくなった時に訪れるのか。」
「そうさ。星は輝くからこそ星なんだろ。」
「そうか。」
穏やかな風が丘に生えた芝生を波打たせる。
「俺は君達が羨ましい。君達は、生まれた頃から星であった。星である事を疑いもしなかった。だから星としての役目を果たしたなら、潔く死を受け入れる事が出来るのだろう。」
「どういう事かな。」
「俺たちはちょっと不思議な生き物なんだ。生まれた頃から在り方が決まっている訳ではなく、自分で探さなければならない。運よく見つかればいいが、見つからなかった時が悲惨だ。何をするでもなく無為に時間を過ごすことになる。君達のように輝くことも出来ずに死ぬことだってある。」
「可哀想に」
「そう、可哀想な生き物だ。俺もそのうちの一匹だ。俺は今まで、一度だって輝けたことは無かった。そうしようと努力する事もなく、ただ時間を浪費して、死ぬことすらできていない始末だ。」
「だから君達が羨ましい。生まれた頃から輝く事が決められていて、それを果たせば死ねる君達が。」
風はいつしか止んでいる。
「じゃあ星になってみるかい。」
「星に?」
「僕の余った命で君に火をつけてあげよう。君は燃えて死んでしまうけれど、その一瞬だけ、君は星になれるんだよ。」
話し声は止んだ。彼は小さく何かをつぶやいたが、それを聞いたのは死にゆく彗星だけだった。
翌日、「山奥で何かが明るく光った」という噂が立った
それを見た人はこういった
「まるで、星のようだった。」