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Yoru no ma
森の珊瑚が一つ死んだ
森の珊瑚が一つ死んだ。
死んだ色をしていたから、きっとあれは死んだんだろう。
「なんで死んだの?」
僕は生きている方に聞いてみた。
「死ぬ?死ぬとはなにかな」
「死ぬって、生きてるのを辞めた時だよ」
「生きている?生きているとは、なにかな」
珊瑚は心底不思議そうに聞き返す。
「生きるも死ぬも、ないのさ。だって、灰になったって消えやしない。あり続ける。それだけだよ」
「でも。悲しくないの?」
珊瑚の周りを、枯葉のように魚が舞う。
「それは、君たちだけのものなのさ。君たちは意味を欲しがるから悲しむんだろう。意味がなくなるから死にたくないんだ。意味があるから生きてて楽しいんだ。だから、その切れ目を生と死にわけるんだろう」
珊瑚の合間の魚達は、身を捩ったり、珊瑚をつついたり、死んだ珊瑚をぐしゃぐしゃにしたりした。
けれど珊瑚は何もしない。身動きひとつ、不満ひとつ。
「かっこいいね。」
「かっこいい?かっこいいとはなにかな」
僕は珊瑚の影を抜けた。
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